この展望台に到着してから、どれくらいたったのだろうか?
土俵ほどの広さの場所で大きな男がふたり、唸り、歌い、激しい動作を繰り返している。
のたうつ機会をなくしたぼくは、ゾンビの頭を外し、チャッピーの横に腰かけている。
吹き抜ける風が、気持ちいい。
パーンと音がして、
遠くの空に、花火が咲いた。
近くで見る華やかさはないけれど、心にじんとくるほど、きれいだ。
すぐうしろで、あんな光景が繰り広げられていることを、わすれてしまうくらい、きれいだ。
色とりどりの球形花火。
キラキラと飛ぶ流れ星。
青い夜に輝く白いユリ。
チャッピーと一緒に見ているからかな?
ふいに、なつかしい記憶が、やってきた。
あの夏の、最初の旅の。
「チャッピー、ぼくにも、ぼくの猫がいたことがあったんだ」
「エエエッ、なーん」
「短い付き合いだったけど・・・、」
「なぁん?」
「名前? 名前は、ちび夏」
「エエッ、なあご」
「ああ、心配しないで。ちび夏は、いまも元気でいるよ」
「なぁあ~ん」
「うん、今年も、会いに行くつもり・・・」
ちび夏っていうのは、小4の夏、最初の旅の途中で出会った猫だ。
子猫だったちび夏は、ぼくが夜を明かすことになった神社の境内に捨てられていた。
ぼくが境内に行きついた時、そこですでに爆睡していた中学生のおねえさんと、一緒にお世話をすることに決めた。
けれど、ちび夏は、小さい体で、炎天下、ぼくと旅するのは無理だった。
だから、神社から数時間で行けるおねえさんの旅の目的地、湖水村にいる。
おねえさんのおじいさんの家の子になったんだ。
なんて、思い出していたら、いままでの旅で出会って別れた人や、もう会えない人のことまでが、ぼろぼろ出てきた。
「エエエン」
「ああ、大丈夫。泣きそうだけど、泣いてないから」
なぐさめるように声をかけてくれるチャッピーって、いい猫だな。
猿神さんはあんな人だけど、チャッピーと一緒なら楽しい夏になりそうだ。