ぼくたちは夏の道で(4/12)

文・朝日千稀   絵・木ナコネコ

その人を見かけてから、すでに、数分、経っている。
もしかしたら、もう、いないかも?
あっ、まだ、いる!
猿神家をぐるりと囲む、黒い板塀がとぎれた先の、角を曲がったそこに、同じ姿勢で、電柱に向き合ったままの姿勢で、たたずんでいる。
白い上着、黒っぽいスカートは、学校の制服?

「あの・・・、こんばんは」
少し離れたところから、声をかけてみた。
「どうかしましたか?」
と、その人の肩が、びくりと上がり、ふり向いた。

「わーっ! 驚き、桃の木、さんしょの木!」
ショートカット、キリリとした眉、小さな顎の美形女子!
年はぼくと、同じくらいかな?
驚きで、見開かれた瞳がきらきらしている。
なんて、なんて、きれいな人なんだ!
思わず、ドキッ!

「す、すみません、驚かすつもりはなかった、です」
「でも、わたしは、ちゃんと、驚いた」
「すみません・・・。あっ、すみませんですめば、警察はいりませんよね。わかっています。でも、驚かしてしまって、すみません」

「あの」その人の、片眉が、ぴくりと上がる。
「はい」ぼくは、それにも見とれてしまう。
「そこまで言ってもらうと、背中がかゆくなってくる」
「あっ、すみません」
「もう、いいって! ところで、わたしに、なにか?」
と問われ、本来の目的を思い出す。

「あなたは、」
「わたしは、山野辺美好(ヤマノベ ミヨシ)」
「ああ、ぼくは如月幸太といいます。で、山野辺さんはここで、なにを?」
「わたしは、如月くんみたいな人を、待っていた・・・のかも・・・」
「は・・・い・・・?」
「じつは、わたし、吸血鬼なんだ」
「え、えええーっ!?」
こ、これは、どういう展開、なんだ?

「どう? びっくりした?」
「はい、びっくりしてます! げ、現在進行形で、びっくりし続けて、ます」
「そうか。よかった」
「は、はい?」
「びっくり返しだ」
「な、なるほど」
「ほどよくびっくりを返せたところで、白状しよう」
「ここで、なにをしていたかを、ですか?」
「そんなこと、白状するほどのことか?」
これを、と山野辺さんは、電柱を示す。
そこには、ポスターが貼ってある。

『この猫を見つけてください!』
名前は、パピです。
真っ白のオス猫。
右目はブルー。
左目は黄色。
*紺の首輪をしています。
*名前を呼ぶと、返事をします。
*大柄ですが、とても甘えっ子です。

そして、写真と連絡先。

朝日千稀 について

(あさひ かづき)福井県福井市在住。3猫(にゃん)と一緒なら、いつまでもグータラしていられる

木ナコネコ について

(きなこねこ)福井生まれ、大阪住まい。福井訛りの謎の関西弁が特徴。猫と珈琲と旅が好き。