「水が、湧いてる」
「うん。ここの水は昔からかれたことがないんだって。・・・でも、おかしいな」
山野辺さんは、しきりに首をかしげている。
「なにが?」
「パピが、いない。ナキガラが・・・。パピは、どこで眠りについたのだろう。てっきり、ここだと思っていたけど・・・」
「では、なぜ、パピのユーレイは山野辺さんを、ここに?」
「わからない・・・」
なあ、パピ、おまえはなぜ、おねえちゃんをここに連れてきたんだ? 問いかける山野辺さんの足に、パピがすりすり身を寄せる。
「わかったよ、パピ」
「えっ? 理由、わかったんですか?」
「理由はわからない」
山野辺さんは、深く考えをめぐらすように、目を閉じる。
「・・・けど、とりあえず・・・」
「とりあえず?」
「遊ぼう!」
「遊ぶ?」
「そう、パピは遊びたがっている。ほら、こんなにすりすりしている。だから、遊ぼう、みんなで!」
と、山野辺さんが、ネコジャラシに手を伸ばす。
しかし、この人は、めちゃめちゃ不器用なのだろう。
「抜けない。如月くん、抜いて」
「はい」
ネコジャラシをうまく持てないと言う山野辺さんは、猫たちを追ったり追われたりの担当で、ぼくはじゃらす担当で、遊びまわった。
笑って、はしゃいで、走って、飛んで。
猫たちが、あきるまで、遊びまわった。
ぼくも、すっかりへとへとだけど、なんだか気分は明るくなった。
山野辺さんの、熟考の末のとりあえず遊ぶという案は、大正解だった。