だけど、ふと、パピに目をやると・・・。
ついさっきまで、チャッピーと変わらないほどしっかりしていた輪郭が、ぼんやりしている。
白い体の向こうの景色が、ハトロン紙を通して見るように、うっすらと透けている。
別れの時間が、せまってるんだ。
透けてきてるってことは、そういうことだ。
一番好きだったこの場所で、心ゆくまで山野辺さんと遊んだパピの魂は、もう、なにも、思い残すことがなくなって・・・。
「そうなのか?」
山野辺さんに問われ、ぼくは、また、想いを口にだしていたのかと気づく。
「たぶん、そういうことだと」
「だめだよ、パピ。まだ、行っちゃだめだ」
山野辺さんはパピと向き合い、話しかける。
「なぜ、おねえちゃんより先に行く。ほら、もっと遊ぼう。パピの好きな肩のりのりも、頭のりのりも、まだしてないじゃないか」
どんどん透けていくパピを、山野辺さんは抱きあげる。
「なあ、パピ・・・、おまえ、もう、行くの? 向こうの世界に、行ってしまうのか?」
ギュッと抱きしめて、
「ほんとに、ほんとに、ほんとに、ほんとに・・・」
大好きだよと、額と額を、くっつける。
その鼻先に、パピがかぷっと噛みついた。
「痛っ!」
と目を閉じた山野辺さんの腕の中で、パピはフッと掻き消えた。
「・・・おまえ、愛情表現、痛すぎ・・・」
そう言って、山野辺さんは、閉じた目をゆっくり開いた。
鼻の頭にパピの噛み痕、うっすらつけた山野辺さんの肩がふるえてる。
けど、ぼくは、なにもできない。
ああ、せめて・・・。
ティッシュ、持ってくればよかった・・・。
そうすれば、これで、ちんしてと渡せたのに・・・。