エルとくるみとソラ(1/7)

文・七ツ樹七香  

大好きなはずの絵の教室でもなんだかイライラして、くるみはふきげんなまま家に帰った。
「お母さん、ゆいちゃんの家は犬飼ったんだって。もう遊びにいかない」
「あら、そうなの。どんな子か見たの?」
「ミニチュア・ダックスフント、チョコレートタンでロングコート。五か月ぐらい」

くるみはぶすっとした顔で、さっき見たばかりの子犬を思いうかべて、すらすらと特ちょうを伝えた。軽くうなずいて、くるみのお母さんは最後の洗たく物をたたみおえる。
「ふふ、茶色くてまぁるいまゆがついてて、どう長短足の子ね。さすがくるみはくわしいなあ。五か月じゃ、まだまだ子犬だね。かわいいだろうねえ」
「ぜんぜん! 犬とかサイアク」


ピシャリと言って、くるみはカバンからスケッチブックを取り出すと、えんぴつを手にしてなにかをえがきはじめた。
「・・・そっか。くるみ、あなたのおせんたくものここにあるから、お部屋にかたづけておいて。お母さん今から買い物に行ってくるね」
お母さんがでかけると、くるみはポツリとつぶやいた。

まっしろだったスケッチブックに、失敗作ばかりがふえていく。
「本当に、サイアク」
頭からはなれずに、ついかいてしまった子犬の絵にくるみは大きくバツ印をつけた。
好きじゃないのに、そのはずなのに。
くるみにとって、どうしても犬は特別なのだった。

七ツ樹七香 について

(ななつきななか)熊本県出身。「ピイのとんだ空」で第30回日本動物児童文学賞優秀賞。 「ラスト・オテモヤン」で第41回熊本県民文芸賞小説部門一席を受賞。熊本日日新聞に全10回連載され好評を博す。本作は朗読CD化、熊本県内数カ所の図書館で視聴可能。 ほか、第1回西の正倉院みさと文学賞 佳作、集英社WEBマガジンコバルト がんばるorがんばらない女性小説賞大賞、第16回深大寺恋物語 調布市長賞など。 共著に『謎解きホームルーム2』『恐怖文庫』『感動文庫』(いずれも新星出版社)動物が好き。犬と小鳥と暮らしている。