大好きなはずの絵の教室でもなんだかイライラして、くるみはふきげんなまま家に帰った。
「お母さん、ゆいちゃんの家は犬飼ったんだって。もう遊びにいかない」
「あら、そうなの。どんな子か見たの?」
「ミニチュア・ダックスフント、チョコレートタンでロングコート。五か月ぐらい」
くるみはぶすっとした顔で、さっき見たばかりの子犬を思いうかべて、すらすらと特ちょうを伝えた。軽くうなずいて、くるみのお母さんは最後の洗たく物をたたみおえる。
「ふふ、茶色くてまぁるいまゆがついてて、どう長短足の子ね。さすがくるみはくわしいなあ。五か月じゃ、まだまだ子犬だね。かわいいだろうねえ」
「ぜんぜん! 犬とかサイアク」
ピシャリと言って、くるみはカバンからスケッチブックを取り出すと、えんぴつを手にしてなにかをえがきはじめた。
「・・・そっか。くるみ、あなたのおせんたくものここにあるから、お部屋にかたづけておいて。お母さん今から買い物に行ってくるね」
お母さんがでかけると、くるみはポツリとつぶやいた。
まっしろだったスケッチブックに、失敗作ばかりがふえていく。
「本当に、サイアク」
頭からはなれずに、ついかいてしまった子犬の絵にくるみは大きくバツ印をつけた。
好きじゃないのに、そのはずなのに。
くるみにとって、どうしても犬は特別なのだった。