「はい。お力になれなくてもうしわけありませんが――」
電話がおわりになりかけたところで、くるみは部屋を飛び出した。
おどろくお父さんの手からスマートフォンをうばい取り、電話口で早口に言う。
「いえ、うちの子にします。お父さんが大事にするからだいじょうぶです」
それだけを言うと、くるみは「ハイ」とお父さんに電話を返した。そしてスタスタと部屋にもどると、むずかしい顔をしたまま、また絵をかき始めた。
「え? あ、浅田さん。す、すいません。ちょっといま――、また電話します」
あわてたお父さんは電話を切り、もう一度くるみの部屋にいきおいよく飛びこんできた。
「おい、くるみ。どういうことだっ」
「お父さんとお母さんがお世話するならいいんじゃない。わたしはお手伝いしないし、好きになんかならないけど、別に犬が家にいるぐらいならわたしだって平気だもん」
「くるみ・・・、いや、お母さんにもう一度相談してくるよ」
お父さんは、くるみになにか言いたそうにしていたが、こまり顔のままお母さんのいるリビングに向かった。
お父さんがいなくなると、くるみはこわい顔をやめて大きなためいきをついた。
仲良くしなかったら、きっと好きにはならないに決まってる。
くるみの胸は、ふくざつにドキドキしていた。