エルとくるみとソラ(4/7)

文・七ツ樹七香  

「もう! わたしは絵をかいてるんだから、じゃましないで」
くるみがおこっても、しっぽをふったままソラは待っている。
オフッ! と、ひと声ほえられて、くるみはしかたなくボールをポンと放った。投げ方の良くなかったボールは、ローズマリーのしげみの真ん中にすっぽり入って見えなくなった。
「あーあ」とくるみは声をあげたが、ソラは矢のように飛び出していく。

ソラはザクッ、としげみの中に顔をつっこみ、やっぱりしっぽをブンブンふり回しながらボールをさがしている。なかなか見つからなくて、頭をあちこちに動かしているので、しげみがそのたびにもぞもぞ動く。まるでローズマリーのおばけだ。
「ふふっ、エルみたい」
くるみは思わず声をあげて笑った。

エルにちょっといじわるしてしげみの中におもちゃを放り投げると、ソラのように楽しげにしっぽをふりながらさがしにいった。おもちゃをくわえてもどってきたエルからは、いつも草のいいにおいがしたものだった。
タタッとソラがかけもどってくる。そして、くわえてもどってきた水色のボールを、またぽとりとくるみのそばに落とした。

「上手だね」
ほめてほしいと胸をはっておすわりするソラに、仕方なくこたえてやると、ふわっとやわらかい秋風がふいた。ソラの頭についたローズマリーのにおいがくるみの鼻にもやさしく香る。スッとしてさわやかな、なつかしいようなにおいだった。

七ツ樹七香 について

(ななつきななか)熊本県出身。「ピイのとんだ空」で第30回日本動物児童文学賞優秀賞。 「ラスト・オテモヤン」で第41回熊本県民文芸賞小説部門一席を受賞。熊本日日新聞に全10回連載され好評を博す。本作は朗読CD化、熊本県内数カ所の図書館で視聴可能。 ほか、第1回西の正倉院みさと文学賞 佳作、集英社WEBマガジンコバルト がんばるorがんばらない女性小説賞大賞、第16回深大寺恋物語 調布市長賞など。 共著に『謎解きホームルーム2』『恐怖文庫』『感動文庫』(いずれも新星出版社)動物が好き。犬と小鳥と暮らしている。