「もう! わたしは絵をかいてるんだから、じゃましないで」
くるみがおこっても、しっぽをふったままソラは待っている。
オフッ! と、ひと声ほえられて、くるみはしかたなくボールをポンと放った。投げ方の良くなかったボールは、ローズマリーのしげみの真ん中にすっぽり入って見えなくなった。
「あーあ」とくるみは声をあげたが、ソラは矢のように飛び出していく。
ソラはザクッ、としげみの中に顔をつっこみ、やっぱりしっぽをブンブンふり回しながらボールをさがしている。なかなか見つからなくて、頭をあちこちに動かしているので、しげみがそのたびにもぞもぞ動く。まるでローズマリーのおばけだ。
「ふふっ、エルみたい」
くるみは思わず声をあげて笑った。
エルにちょっといじわるしてしげみの中におもちゃを放り投げると、ソラのように楽しげにしっぽをふりながらさがしにいった。おもちゃをくわえてもどってきたエルからは、いつも草のいいにおいがしたものだった。
タタッとソラがかけもどってくる。そして、くわえてもどってきた水色のボールを、またぽとりとくるみのそばに落とした。
「上手だね」
ほめてほしいと胸をはっておすわりするソラに、仕方なくこたえてやると、ふわっとやわらかい秋風がふいた。ソラの頭についたローズマリーのにおいがくるみの鼻にもやさしく香る。スッとしてさわやかな、なつかしいようなにおいだった。