エルとくるみとソラ(4/7)

文・七ツ樹七香  

その日の夕ぐれ。
おるす番をしていたくるみは、こっそりとお父さんの部屋に入りこむことにした。
くるみはエルの写真を持っていない。犬の本は、全部お父さんにあげてしまった。熱中していた犬の図鑑(ずかん)も、名犬の活やくをえがいた物語も全部だ。
でも、今日はなぜか犬のことばかり考えてしまうし、どうしてもエルにひと目会いたい気持ちがとまらなかった。

「急に見たくなったんだから、しょうがないんだもん」
お母さんはソラの散歩に行っているし、お父さんは買い物に出かけたので、まだ帰ってこないはずだ。
だれもいないのに、なんとなくしのび足で歩く。お父さんの部屋には勝手に入ってはいけないことになっているので、きんちょうした。
部屋に入ると急いでとびらをしめ、大きい本だなにかけよる。さがしている本はなかなか見つからない。

「おかしいな・・・。あ、あった!」
くるみの犬の図鑑や、もうどう犬の物語などは本だなのはしっこにまとめてあった。それを全部引き出して抱える。大好きだった本がなつかしくて、すぐに開きたいのをガマンする。
(絵をかきたいってことにしたら、変に思われずにすむよね)

七ツ樹七香 について

(ななつきななか)熊本県出身。「ピイのとんだ空」で第30回日本動物児童文学賞優秀賞。 「ラスト・オテモヤン」で第41回熊本県民文芸賞小説部門一席を受賞。熊本日日新聞に全10回連載され好評を博す。本作は朗読CD化、熊本県内数カ所の図書館で視聴可能。 ほか、第1回西の正倉院みさと文学賞 佳作、集英社WEBマガジンコバルト がんばるorがんばらない女性小説賞大賞、第16回深大寺恋物語 調布市長賞など。 共著に『謎解きホームルーム2』『恐怖文庫』『感動文庫』(いずれも新星出版社)動物が好き。犬と小鳥と暮らしている。