その日の夕ぐれ。
おるす番をしていたくるみは、こっそりとお父さんの部屋に入りこむことにした。
くるみはエルの写真を持っていない。犬の本は、全部お父さんにあげてしまった。熱中していた犬の図鑑(ずかん)も、名犬の活やくをえがいた物語も全部だ。
でも、今日はなぜか犬のことばかり考えてしまうし、どうしてもエルにひと目会いたい気持ちがとまらなかった。
「急に見たくなったんだから、しょうがないんだもん」
お母さんはソラの散歩に行っているし、お父さんは買い物に出かけたので、まだ帰ってこないはずだ。
だれもいないのに、なんとなくしのび足で歩く。お父さんの部屋には勝手に入ってはいけないことになっているので、きんちょうした。
部屋に入ると急いでとびらをしめ、大きい本だなにかけよる。さがしている本はなかなか見つからない。
「おかしいな・・・。あ、あった!」
くるみの犬の図鑑や、もうどう犬の物語などは本だなのはしっこにまとめてあった。それを全部引き出して抱える。大好きだった本がなつかしくて、すぐに開きたいのをガマンする。
(絵をかきたいってことにしたら、変に思われずにすむよね)