「ソラは、やさしい子だよ。ボクたちを気に入ってくれてる」
「だって、だって・・・また、さみしいよ。いなくなったら」
「さみしいよ。お父さんもさみしい。でも、ソラは今さみしいんだ。大好きな飼い主さんとお別れしなくちゃいけないんだから。くるみは、少しはソラが好きか?」
「・・・うん。ほんとは、少し、好き」
「くるみ、いつか必ず別れは来るけれど。もう一度、ソラといっしょに楽しい時間を作っていかないか? おたがいに幸せだったと思えるような」
前に飼っていた犬の話を、お父さんはいつもくるみに楽しそうに教えてくれた。やんちゃなダックスフントに、何足もクツをダメにされたこと。でも、悲しいときにはいつもよりそってなぐさめてくれたこと。あまえんぼうだったミックス犬は、お父さんが親にしかられているのをみつけると、助太刀するようにほえながら割りこんできたこと。
くるみはそんな話のひとつひとつを、うれしそうなお父さんの顔とともにおぼえている。
くるみも、そんな風にエルのことを話せたらよかった。エルはいつも、くるみに「好きだよ」としっぽをふっていた。ボール遊びが好きで、海にもいっしょに泳ぎに行って、ふたりだけの「いってらっしゃい」の合図だって作った。
人間と犬だけど、特別ななかよしになれた。大好きだった。やっとちゃんと思い出せた。
「できるかな。そんな風に、ソラとも。エルみたいに」
「できると思うよ」
お父さんはぎゅっとくるみの手をにぎった。
「ソラと、仲良く、なりたい。うちに、いてほしい」
「そうか。よかった。ありがとうな」
すると、また「ワン」とあの不思議な鳴き声が聞こえた気がした。
ソラの声ではない。不思議そうにくるみが空中を見上げ、次にソラを見ると、その黒いひとみがうれしそうに光った。くるみはしゃがんでソラを抱きしめると、金色のやわらかい毛にほほをすりつける。
「ソラ」
くるみが名前を呼ぶと、ソラは大よろこびして、ブンブンとしっぽをふりまわした。