「おっかちゃん、おかえり」
「ただいま、小糸」
ふたりは、まるで、長い年月、会わなかった者同士のように、小道の真ん中で、だき合って、笑いました。
「いい子だったかい、小糸?」
「うん」
母親と手をつないで、ぶらぶら、歩きながら、小糸は、その日にあったことを話します。
「きょうは、ばあちゃんと、さわへ行って、カニをつかまえたよ。おゆび、はさまれて、いたかったけど、小糸、泣かなかったんだよ」
おまつは、にこにこと、娘の顔をのぞきこみます。
「そうかい。えらかったね。でも、よくよく、気を付けるんだよ。さわに落ちたり、ヘビにかまれたり、しないようにね」
そして、いつも、決まったように、こう、付け加えます。
「おまえに、もしものことがあったら、おっかちゃんは、ただではいられないからね」
小糸は、母親の言う、「もしものこと」というのが、よく、分かりません。
そこで、あるとき、
「『もしものこと』ってなあに、おっかちゃん?」
と、聞いてみました。