おまつの声はくぐもりました。
「おまえがいなくなるってことだよ、おとっちゃんのように・・・」
小糸は、父親が、急にふせって、間もなく、死んでしまった時のことを、ぼんやり、覚えていました。
何だか、とてもさみしく、まわりが、がらんと広くなったものでした。
「あたいがいなくなったら、おっかちゃんは、どうするの?」
小糸は、立ち止まって、母親を見上げました。
「そうだねえ・・・」
おまつは、小糸のやわらかい、暖かい手をにぎりしめて、じっと、考えました。
そして、ぼそりと、言いました。
「おまえがいなくなったら、おっかちゃんは山に入って、オニになるしかあるまいよ」
その顔が、あんまり、暗く、おそろしげに見えたので、小糸は、思わず、手をはなして、ばあさまのそばにかけよったのでした。