オニの忘れた子守歌(1/6)

文・伊藤由美   絵・岩本朋子

小糸が、とつぜんの流行り病で亡くなったのは、そろそろ、山の木の葉が色づくころでした。
おまつのなげきようは、目をおおうばかり。
娘のなきがらにすがって、いつまでも、おいおいと、泣いていました。

「気の毒だなや。先年、亭主ば亡くしたばかりだっつのに」
「んでも、ずっと、ああしておくわけにもいかねべ。いいかげん、娘ばほうむらんと」
村人たちは、いやがるおまつを、むりやり、ひきはなして、小糸のなきがらを、村はずれの無住のお寺にほうむりました。

おまつは、真新しい、小さなお墓の前で、何日も、何日も、泣きふしていました。
どのぐらいたったころでしょう。
名主の庄兵衛の家に、ひょろひょろにやせたばあさまが、転がりこんで来ました。
ばあさまは、土間にくずおれるなり、さけびました。

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに

岩本朋子 について

福井県福井市出身。同市在住。大阪芸術大学芸術学部美術家卒。創作工房伽藍を主催。伽藍堂のように何も無いところから有を生むことをコンセプトでとして、キモノの柄作りからカラープランニング等、日本の伝統的意匠とコンテンポラリーな日用品(漆器、眼鏡、和紙製品等)とのコラボレーションを扱い、オリジナルでクオリティーの高いものづくりを心掛けている。また、高校非常勤講師として教えるかたわら、福井県立美術館「実技基礎講座」講師を勤める。