「助けてくだせえ、名主様!」
「こりゃあ、おまつのばあさまでねえか! なじょした!?」
ばあさまは、ぶるぶると、庄兵衛に手を合わせて、言いました。
「おまつが、だんだんと、おかしくなりすてす。先だっては、うらの木の根方ば、素手でほって、眠ってたヘビを食いした。おとついは、にわとりが、1羽のこらず、いねぐなり、きょうは、きょうは・・・」
「ああ、じれってえな!きょうは、なじょしたんだてば、ばあさま!?」
「わしを見ながら、ぺろぺろ、舌なめずりしすてば!」
ばあさまは、「わあん」と、泣き出しました。
「そいつあ、大ごとだ。だれぞ、おまつば見さ行ってこ!」
庄兵衛は、すぐに、人を走らせましたが、あれ果てた家のどこにも、もう、おまつの姿はありません。
その晩のうちに、ばあさまは、高い熱にうなされて、死んでしまいました。
それから、村に、だれ言うとなく、不気味なうわさが広がりました。
「おまつは、山さ入って、オニになったんだと」