ところが、20日を少し過ぎたころに、吉野山の行者が、ひとりで、村に現れたのです。
柿色のけさに黒頭巾。
がんじょうなつえをたずさえ、手にはじゅず、こしにはつるぎ、背中には笈(おい)というお経入れの箱をせおっています。
肩からぶら下がるほら貝の、何と、大きなこと!
山伏(やまぶし)とも呼ばれるこのお坊さんたちは、山にこもって、長い、きびしい修行をつみます。
その結果、風のように早く、歩くことができたのです。
「何ちゅう、速足だべや!」
おどろく村人に、
「われは人の道は通らなんだ。お使いの手紙を読み、これは急いだほうがよかろうと思い、吉野山から木曾(きそ)、飛騨(ひだ)、関東から陸奥(むつ)へと、山の峰みねを伝って、旅してまいった」
と、大声で、ガンガン、答えました。
何とも、たのもしいお坊さんです。
「事情はあいわかった。わしに任せるがよい。み仏のお力で、ふらちなオニを退治してくれようぞ。あんどして待たれよ」
そう言うなり、
ブォーン!ブォブォーン!
行者は、高らかに、ほら貝を吹き鳴らしました。
「オーン キリキリ オン キリキリ!
アビラウンケン ソワカ!」
ジャラジャラと、じゅずを鳴らし、カツカツと、高げたの音をひびかせて、行者は山に入って行きます。
「ナウボバギャ バディ アバエンキャシャ アダギャタヤ ソワカ!
喝(かぁーつ)!!」