オニの忘れた子守歌(3/6)

文・伊藤由美   絵・岩本朋子

「結界って、なんだべ?」
みなで山の入り口に行ってみると、坂道を、少し、登った所に、行者のつえが、かたむいて、ヨロっと、立っていました。
「あれだべおん」
「なんだべ、たよりねえな」
村人はがっかりしてしまいました。

「行者様は、ああ、おおせだが、もどって来るだべか?」
「いや、おら、こんりんざい、もどって来ねえと思う」
その後、何日もたってから、吉野山へ行った使いの二人が、行者と入れちがいに、やっと、村に帰って来ました。

「なずだったべ? 行者様はオニば退治してくれたべか?」
与作と田平が聞いても、みな、ふきげんに首をふるばかり。
庄兵衛だけが、
「ご苦労様じゃったな」
と、ねぎらったのでした。

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに

岩本朋子 について

福井県福井市出身。同市在住。大阪芸術大学芸術学部美術家卒。創作工房伽藍を主催。伽藍堂のように何も無いところから有を生むことをコンセプトでとして、キモノの柄作りからカラープランニング等、日本の伝統的意匠とコンテンポラリーな日用品(漆器、眼鏡、和紙製品等)とのコラボレーションを扱い、オリジナルでクオリティーの高いものづくりを心掛けている。また、高校非常勤講師として教えるかたわら、福井県立美術館「実技基礎講座」講師を勤める。