それは、ずっと無住だったお寺に、急に、旅のお坊さんが住み付いたことと、何か、関係があったでしょうか?
といっても、このお坊さん、やせっぽっちのひょろひょろで、色あせたつぎはぎだらけの着物から、でこんぼうのような手足が、にょっきり、のびているすがたは、畑のかかしのようです。
「ぷはあ。なんちゅう、みっともねえ坊さまだなや。いってえ、どっから流れて来たもんやら」
「あれで、ろくに、経が読めるんだべか?」
「ほんでも、寺ば空けておくよりましだべおん。そうじぐれえはするだべからな」
というわけで、お坊さんは、めでたく、村に受け入れられました。
喜んだのは子供たちです。
お坊さんが家々を托鉢(たくはつ)に回るたび、子供たちは、大はしゃぎで、そのあとをついて行き、おかしな歌で、はやしたてました。
こじき坊主、くそ坊主
ボロがさ、ボロけさ、てんてん坊~・・・
無理もありません。
お坊さんの衣は、やけに、小さく、すそはツンツルテンで、それに破れたすげ笠をかぶると、てるてる坊主みたいだったのです。
でも、お坊さんは腹を立てるでもなく、いつも、にこにこしています。
子供たちは、いつの間にか、すっかり、なついてしまいました。
そして、はき清められたお寺の境内に、毎日、集まるようになりました。
お坊さんは、子供たちのようすを、目を細めて見守っていました。
時には、いっしょに、こまを回したり、手まりをついたりすることもありました。
そのうち、
「どうれ、いろはでも教えようかな」
と、子供たち相手に、手習いをし始めました。
これには、村人たちも、
「なかなか、見どころのある坊さんでねえか」
と、感心し、母親たちなどは、わざわざ、おかずをこしらえて、届けるようにもなりました。