ある日、庄兵衛の孫娘、お千代が、家の外で、「えーん」と、泣いています。
「どしただ、お千代ちゃん?」
村人が聞くと、
「じーちゃんが、あたいの手ならい、取ったあ!」
「名主様がてんてん坊の書いた習字ば、お千代坊から取り上げて、床の間にかざったっちゅうぞ」
うわさはたちどころに広がり、村人が、こぞって、庄兵衛の家をたずねました。
「名主様、どうぞ、かけじくば見せでけさいん」
中に通されると、太い大黒柱の立派な床の間に、「はる」と書いた字がかざってありました。
何とものどかな、のびのびとした字です。
見ているうちに、ふんわり、安らいだ気分になって、村人たちは、だれからともなく、手を合わせたのでした。