オニの忘れた子守歌(4/6)

文・伊藤由美   絵・岩本朋子

こうして、すっかり、村になじんだてんてん坊でしたが、不思議に思っていることがありました。
毎日、境内に集まって、元気いっぱいに遊んでいる子供たちが、昼が過ぎ、少しでも日がかたむき始めると、そそくさと、家に帰って行くのです。

「なあ、おまえたち。どうして、いつも、こんなに早く、帰ってしまうんだね。お天道様は、まだ、あんなに高いっていうのに」
とうとう、あるとき、てんてん坊は、子供たちを引き止めて、聞きました。

すると、最初はもじもじしていた子供たちが、ぽつり、ぽつりと、わけを話し始めました。
それは、聞くもおそろしい話でした。
おまつという母親が子どもをなくし、山に入ってオニになったこと。
お城から強いおさむらいたちがやっつけに来たけれど、ぎゃくに、みんな、やっつけられてしまったこと。
遠くから、とてもえらいお坊さんが退治に来たけれど、やっぱり、かなわなかったこと・・・。
子供たちの顔は、だんだんと、青ざめていきました。

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに

岩本朋子 について

福井県福井市出身。同市在住。大阪芸術大学芸術学部美術家卒。創作工房伽藍を主催。伽藍堂のように何も無いところから有を生むことをコンセプトでとして、キモノの柄作りからカラープランニング等、日本の伝統的意匠とコンテンポラリーな日用品(漆器、眼鏡、和紙製品等)とのコラボレーションを扱い、オリジナルでクオリティーの高いものづくりを心掛けている。また、高校非常勤講師として教えるかたわら、福井県立美術館「実技基礎講座」講師を勤める。