「だいじょうぶだよ、みんな。わたしは、べつに、戦さに行くわけじゃないんだから。ただ、ちょっと、話を聞きに行くだけだ。それにな、」
と、てんてん坊は、衣のえりをはだけて、胸のあばら骨を見せました。
「こんなやせっぽっちを、だれが『食いてえ』って思うかね?」
子供たちは、「わはは」っと、笑い出しました。
てんてん坊は、そんな子供たちの頭を、ひとりひとり、なでながら、言いました。
「安心おし。明日の朝、一番どりが鳴くころには、きっと、ここにもどっているよ。約束げんまんだ。だから、さあ、おかえり」
「約束げんまんだからな!」
こう、てんてん坊にうながされて、子供たちは、しぶしぶ、帰っていきました。
てんてん坊は、しばらく、縁(えん)にすわって、暮れてゆく山をながめていました。
「あわれな話だなあ」
ちょうど、山の端に、まん丸い月が上ってくるところです。
てんてん坊は、ゆっくり、立ち上がり、本堂にむかって、深ぶかと頭を下げました。
それから、
「満月か。いい宵(よい)になりそうだ」
と、山に向かって歩き出したのでした。