オニの忘れた子守歌(4/6)

文・伊藤由美   絵・岩本朋子

「だいじょうぶだよ、みんな。わたしは、べつに、戦さに行くわけじゃないんだから。ただ、ちょっと、話を聞きに行くだけだ。それにな、」
と、てんてん坊は、衣のえりをはだけて、胸のあばら骨を見せました。
「こんなやせっぽっちを、だれが『食いてえ』って思うかね?」
子供たちは、「わはは」っと、笑い出しました。

てんてん坊は、そんな子供たちの頭を、ひとりひとり、なでながら、言いました。
「安心おし。明日の朝、一番どりが鳴くころには、きっと、ここにもどっているよ。約束げんまんだ。だから、さあ、おかえり」
「約束げんまんだからな!」
こう、てんてん坊にうながされて、子供たちは、しぶしぶ、帰っていきました。

てんてん坊は、しばらく、縁(えん)にすわって、暮れてゆく山をながめていました。
「あわれな話だなあ」
ちょうど、山の端に、まん丸い月が上ってくるところです。

てんてん坊は、ゆっくり、立ち上がり、本堂にむかって、深ぶかと頭を下げました。
それから、
「満月か。いい宵(よい)になりそうだ」
と、山に向かって歩き出したのでした。

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに

岩本朋子 について

福井県福井市出身。同市在住。大阪芸術大学芸術学部美術家卒。創作工房伽藍を主催。伽藍堂のように何も無いところから有を生むことをコンセプトでとして、キモノの柄作りからカラープランニング等、日本の伝統的意匠とコンテンポラリーな日用品(漆器、眼鏡、和紙製品等)とのコラボレーションを扱い、オリジナルでクオリティーの高いものづくりを心掛けている。また、高校非常勤講師として教えるかたわら、福井県立美術館「実技基礎講座」講師を勤める。