あたりは、とっぷりと、暗くなりました。
こずえの間に、ちらちらと、星がまたたいています。
大きな月は、林に見えかくれしながら、てんてん坊の行く先を照らします。
満開を過ぎた桜が、はらはらと、花びらを散らし、道は、まるで、白いじゅうたんをしいたようです。
「なんとまあ、天女の通う道のようだ!」
てんてん坊は、思わず知らず、流行り歌を口ずさんでいました。
ところが、とうげも間近というところで、急に、生ぐさい、冷たい風が吹いてきました。
そこは、両側を、高い岩かべにはさまれた、せまい切通しです。
そのがけの下、黒ぐろとしたやみの中に、ちらちらと、たき火が燃えていました。
だれか、火の前に、がかがみこんでいます。