オニの忘れた子守歌(5/6)

文・伊藤由美   絵・岩本朋子

「あれかな?」
てんてん坊はたき火に近づいていきました。
「こんばんは。ちょっと、あたらせてもらってもいいだろうか?」
「ああ、ええよ」
ガラガラ声が答えました。

ギラギラと光る目に、耳まで、カッと、さけた口。
ぼさぼさのかみにはかれ葉がからまり、着ているものは、もとの形がわからないほど、ぼろぼろです。
「ありがたい。春とは言え、夜は、やっぱり、冷えるなあ」
てんてん坊は、たき火の前に、どっかり、座ると、うれしそうに、火に手をかざしました。

「お坊さん、こんな夜半に、なじょな用で、ここさ来たのしゃ?」
ガラガラ声が聞きました。
「わたしか。わたしは、オニに会いに来たんだが、ひょっとして、あんたがそうかね?」
「そっしゃ」
オニは、ガハガハと、笑いました。

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに

岩本朋子 について

福井県福井市出身。同市在住。大阪芸術大学芸術学部美術家卒。創作工房伽藍を主催。伽藍堂のように何も無いところから有を生むことをコンセプトでとして、キモノの柄作りからカラープランニング等、日本の伝統的意匠とコンテンポラリーな日用品(漆器、眼鏡、和紙製品等)とのコラボレーションを扱い、オリジナルでクオリティーの高いものづくりを心掛けている。また、高校非常勤講師として教えるかたわら、福井県立美術館「実技基礎講座」講師を勤める。