オニの忘れた子守歌(5/6)

文・伊藤由美   絵・岩本朋子

「おめえさん、おらに説教しに来たんだべ? むだなこったよ。おら、オニだ。オニが悪さするんは当たり前だ。言ってみりゃあ、百姓が畑ば耕すようなもん、坊主が経ば読むようなもんだ。止めることはできねえよ」
「なるほど、道理だな。だが、わたしは、説教をしにきたわけじゃない。ちょっと、たのみに来ただけだよ」

「たのみって、なんだべ?」
「あんたは村の子供たちをさらうというじゃないか? 子供たちはこわくて、夜も、おちおち、眠れず、かわやにも行けずにいる。親たちは心配で、気もくるわんばかりだろう。どうか、もう、そんなことはやめてもらえないだろうか」
「いやなこったな」
にべもありません。

「どうしてだね。あんただって、昔は、かわいい女の子の母親だったと聞いたよ。子を思うおっかさんの心は同じだろうに?」
オニは、かたわらに積んであったそだを、らんぼうにつかみ、どさっと、火にくべました。
ぱあっと、火の粉が上がります。

「んだら、こうすっぺ。おらのなぞなぞに、おめえさんが答えれたら、もう、村に行くのはやめにする。どうだ?」
「ほう。どんななぞなぞだね?」
てんてん坊は耳をすませました。

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに

岩本朋子 について

福井県福井市出身。同市在住。大阪芸術大学芸術学部美術家卒。創作工房伽藍を主催。伽藍堂のように何も無いところから有を生むことをコンセプトでとして、キモノの柄作りからカラープランニング等、日本の伝統的意匠とコンテンポラリーな日用品(漆器、眼鏡、和紙製品等)とのコラボレーションを扱い、オリジナルでクオリティーの高いものづくりを心掛けている。また、高校非常勤講師として教えるかたわら、福井県立美術館「実技基礎講座」講師を勤める。