オニの忘れた子守歌(5/6)

文・伊藤由美   絵・岩本朋子

オニは言いました。
「仏は、どげな人間にも、分けへだてしねえんだべな?」
「そのとおりだとも。仏様はだれにでも、分けへだてなどせずに、おじひをくださるよ」
「なら、聞くぞ。おら、オニになる前、悪さなど、これっぽっちもしねかった。子供のころは親の言いつけばよく聞き、嫁っこに来てからは、亭主の米吉つぁんや、しゅうと、しゅうとめ様たちに、文句ひとつ言わずにつかえた。米吉つぁんが死んでからは、家ばつぶしちゃなんねえと、一生けん命、働いだ。んだのに、なじょして、仏は、おらの娘ばり、取っていったのしゃ?ほれ、答えてみらいん」
「うーん・・・」
てんてん坊は答えにつまってしまいました。

オニは、ガハガハっと、ゆかいそうに、体をゆすりました。
「情けねえ坊さんだなや。説法のひとつも、ひねり出せねのすか? なら、おらの勝ちだな。おら、この先も、悪さ、やめねえよ。ほかのおっかさん方にも、おらと同じ目してもらわねば、不公平だおん」
オニは、手を、ぱんぱんと、たたいて、木くずを落とすと、
「さ、話は終わりだ。おら、もう、飯どきなんでな」
と、てんてん坊のうでを、むんずと、つかみました。
その強いことといったら!

「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
「今さら、命ごいはねえべ!」
「いやいや、そうではない。わたしにも、ひとつ、聞きたいことがあるんだ。あんたに食われる前に、教えてくれないか。あれは、いったい、何かね?」
オニは、てんてん坊の指さす方を、ふり向きました。


「何のことしゃ? おら、何も見えねえが・・・」
てんてん坊は、まじまじと、オニの顔をのぞきこみました。
「おやまあ、あんたの目! 小グモが巣をはっているじゃないか! これでは見えまい」
てんてん坊は、オニの両目にぶ厚く張っているクモの巣を、ベリベリッと、はがしてやりました。
すると、
「こりゃ、なじょしたこった!?」
確かに、自分の後ろの岩かべに、ほこらのようなものがありました。
ほこらには、がっしりと、鉄のとびらがはまっています。

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに

岩本朋子 について

福井県福井市出身。同市在住。大阪芸術大学芸術学部美術家卒。創作工房伽藍を主催。伽藍堂のように何も無いところから有を生むことをコンセプトでとして、キモノの柄作りからカラープランニング等、日本の伝統的意匠とコンテンポラリーな日用品(漆器、眼鏡、和紙製品等)とのコラボレーションを扱い、オリジナルでクオリティーの高いものづくりを心掛けている。また、高校非常勤講師として教えるかたわら、福井県立美術館「実技基礎講座」講師を勤める。