オニは言いました。
「仏は、どげな人間にも、分けへだてしねえんだべな?」
「そのとおりだとも。仏様はだれにでも、分けへだてなどせずに、おじひをくださるよ」
「なら、聞くぞ。おら、オニになる前、悪さなど、これっぽっちもしねかった。子供のころは親の言いつけばよく聞き、嫁っこに来てからは、亭主の米吉つぁんや、しゅうと、しゅうとめ様たちに、文句ひとつ言わずにつかえた。米吉つぁんが死んでからは、家ばつぶしちゃなんねえと、一生けん命、働いだ。んだのに、なじょして、仏は、おらの娘ばり、取っていったのしゃ?ほれ、答えてみらいん」
「うーん・・・」
てんてん坊は答えにつまってしまいました。
オニは、ガハガハっと、ゆかいそうに、体をゆすりました。
「情けねえ坊さんだなや。説法のひとつも、ひねり出せねのすか? なら、おらの勝ちだな。おら、この先も、悪さ、やめねえよ。ほかのおっかさん方にも、おらと同じ目してもらわねば、不公平だおん」
オニは、手を、ぱんぱんと、たたいて、木くずを落とすと、
「さ、話は終わりだ。おら、もう、飯どきなんでな」
と、てんてん坊のうでを、むんずと、つかみました。
その強いことといったら!
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
「今さら、命ごいはねえべ!」
「いやいや、そうではない。わたしにも、ひとつ、聞きたいことがあるんだ。あんたに食われる前に、教えてくれないか。あれは、いったい、何かね?」
オニは、てんてん坊の指さす方を、ふり向きました。
「何のことしゃ? おら、何も見えねえが・・・」
てんてん坊は、まじまじと、オニの顔をのぞきこみました。
「おやまあ、あんたの目! 小グモが巣をはっているじゃないか! これでは見えまい」
てんてん坊は、オニの両目にぶ厚く張っているクモの巣を、ベリベリッと、はがしてやりました。
すると、
「こりゃ、なじょしたこった!?」
確かに、自分の後ろの岩かべに、ほこらのようなものがありました。
ほこらには、がっしりと、鉄のとびらがはまっています。