オニの忘れた子守歌(5/6)

文・伊藤由美   絵・岩本朋子

「おや、何か聞こえないかね? とびらの向こうからだ。だれかが泣いているようだが・
・・」
「おら、聞こえねえ・・・」
今度は、オニの耳につまったかれ葉を、てんてん坊が、ていねいに、ぬいてやりました。

「あれ、ほんに!」
オニが、どかどかと、とびらに近づいていくので、てんてん坊も、後ろから、ついて行きました。
とびらには小さな窓がついていました。
のぞくと、中の様子が、ぼんやり、見えました。

「おやまあ、女の子だ。座って、しくしく、泣いている。村では見かけない子だが・・・」
てんてん坊が言うが早いか、オニがてんてん坊をつき飛ばして、窓に飛びつきました。
「小糸だ! あれは、おらの娘の小糸だ!」
「何だって! あんたの娘さんだって!?」
「小糸! 小糸! なして、こげな所にいる!」
オニはとびらを、ぐいぐい、おしたり、体を打ちつけたりしましたが、とびらはびくともしません。

その間じゅう、ガラガラ、わめくものだから、
「わあっ! こわいよう!」
女の子は、両手で耳をふさぎ、大声で泣き出しました。
「オニどん。そんなにどなっては、娘さんがおびえるだけだ。もっと、やさしく」
「もっとやさしくだあ!? おめえ、この面のどっから、やさしい声が出るっちゅうだ!」
「ごもっとも」
てんてん坊は、おそろしくみにくいオニの顔を、つくづくと見て、うなずきました。
「では、おまえさんの代わりに、私が聞いてあげよう。そこをどいておくれ」

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに

岩本朋子 について

福井県福井市出身。同市在住。大阪芸術大学芸術学部美術家卒。創作工房伽藍を主催。伽藍堂のように何も無いところから有を生むことをコンセプトでとして、キモノの柄作りからカラープランニング等、日本の伝統的意匠とコンテンポラリーな日用品(漆器、眼鏡、和紙製品等)とのコラボレーションを扱い、オリジナルでクオリティーの高いものづくりを心掛けている。また、高校非常勤講師として教えるかたわら、福井県立美術館「実技基礎講座」講師を勤める。