「おや、何か聞こえないかね? とびらの向こうからだ。だれかが泣いているようだが・
・・」
「おら、聞こえねえ・・・」
今度は、オニの耳につまったかれ葉を、てんてん坊が、ていねいに、ぬいてやりました。
「あれ、ほんに!」
オニが、どかどかと、とびらに近づいていくので、てんてん坊も、後ろから、ついて行きました。
とびらには小さな窓がついていました。
のぞくと、中の様子が、ぼんやり、見えました。
「おやまあ、女の子だ。座って、しくしく、泣いている。村では見かけない子だが・・・」
てんてん坊が言うが早いか、オニがてんてん坊をつき飛ばして、窓に飛びつきました。
「小糸だ! あれは、おらの娘の小糸だ!」
「何だって! あんたの娘さんだって!?」
「小糸! 小糸! なして、こげな所にいる!」
オニはとびらを、ぐいぐい、おしたり、体を打ちつけたりしましたが、とびらはびくともしません。
その間じゅう、ガラガラ、わめくものだから、
「わあっ! こわいよう!」
女の子は、両手で耳をふさぎ、大声で泣き出しました。
「オニどん。そんなにどなっては、娘さんがおびえるだけだ。もっと、やさしく」
「もっとやさしくだあ!? おめえ、この面のどっから、やさしい声が出るっちゅうだ!」
「ごもっとも」
てんてん坊は、おそろしくみにくいオニの顔を、つくづくと見て、うなずきました。
「では、おまえさんの代わりに、私が聞いてあげよう。そこをどいておくれ」