オニの忘れた子守歌(6/6)

文・伊藤由美   絵・岩本朋子

てんてん坊は、中に向かって、言いました。
「小糸ちゃん、聞こえるかい?」
「うん、お坊さん」
娘は、やっと、しずまって、答えます。
「おっかちゃんはね、ここに来ていて、小糸ちゃんのことを心配しているよ」
「ほんと! あたい、会いたいよ! おっかちゃん、おっかちゃん!」
「それが、ちょっと、事情があって・・・」
てんてん坊は、オニのみにくい顔を、ちらりと、見やりました。

「今すぐには、会えないんだ。だけどね、おっかちゃんが、小糸ちゃんに、聞いてくれって言うんだ。小糸ちゃんをそこから助け出すには、いったい、どうしたらいいのかって。小糸ちゃんは、なにか、知らないかい?」
すると、小糸は小首をかしげて、しばらく、じっと、考えていましたが、それから・・・。
「あたい、ここに来てから、ずっと、おっかちゃんの子守歌を、聞きたい、聞きたいって、思ってたの」
「子守歌だって!?」
「うん。おうちにいたとき、あたいがねるときには、おっかちゃんが、いつも、歌ってくれてたの。それを聞いたら、あたい、また、おうちに帰れるような気がする」

「聞いたか、オニどん!」
てんてん坊はオニをふり返りました。
「子守歌だよ! 子守歌を歌えば、小糸ちゃんを助けることができるんだ!」
ところが、オニは、がっくり、頭をたれました。

「忘れだ・・・。覚えてねえ・・・」
「忘れただって!?」
てんてん坊は、口を、あんぐり、開けました。
「そんなのんきな! 娘さんを助けられるかどうかって時に! 何とか、思い出すんだよ、オニどん!」
オニは、「ううん・・・」と、うで組みして、考えて、それから、ポンと手をたたいて、自信たっぷりに歌い始めました。

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに

岩本朋子 について

福井県福井市出身。同市在住。大阪芸術大学芸術学部美術家卒。創作工房伽藍を主催。伽藍堂のように何も無いところから有を生むことをコンセプトでとして、キモノの柄作りからカラープランニング等、日本の伝統的意匠とコンテンポラリーな日用品(漆器、眼鏡、和紙製品等)とのコラボレーションを扱い、オリジナルでクオリティーの高いものづくりを心掛けている。また、高校非常勤講師として教えるかたわら、福井県立美術館「実技基礎講座」講師を勤める。