てんてん坊は、中に向かって、言いました。
「小糸ちゃん、聞こえるかい?」
「うん、お坊さん」
娘は、やっと、しずまって、答えます。
「おっかちゃんはね、ここに来ていて、小糸ちゃんのことを心配しているよ」
「ほんと! あたい、会いたいよ! おっかちゃん、おっかちゃん!」
「それが、ちょっと、事情があって・・・」
てんてん坊は、オニのみにくい顔を、ちらりと、見やりました。
「今すぐには、会えないんだ。だけどね、おっかちゃんが、小糸ちゃんに、聞いてくれって言うんだ。小糸ちゃんをそこから助け出すには、いったい、どうしたらいいのかって。小糸ちゃんは、なにか、知らないかい?」
すると、小糸は小首をかしげて、しばらく、じっと、考えていましたが、それから・・・。
「あたい、ここに来てから、ずっと、おっかちゃんの子守歌を、聞きたい、聞きたいって、思ってたの」
「子守歌だって!?」
「うん。おうちにいたとき、あたいがねるときには、おっかちゃんが、いつも、歌ってくれてたの。それを聞いたら、あたい、また、おうちに帰れるような気がする」
「聞いたか、オニどん!」
てんてん坊はオニをふり返りました。
「子守歌だよ! 子守歌を歌えば、小糸ちゃんを助けることができるんだ!」
ところが、オニは、がっくり、頭をたれました。
「忘れだ・・・。覚えてねえ・・・」
「忘れただって!?」
てんてん坊は、口を、あんぐり、開けました。
「そんなのんきな! 娘さんを助けられるかどうかって時に! 何とか、思い出すんだよ、オニどん!」
オニは、「ううん・・・」と、うで組みして、考えて、それから、ポンと手をたたいて、自信たっぷりに歌い始めました。