オニの忘れた子守歌(6/6)

文・伊藤由美   絵・岩本朋子

ねんねんごろりん、首ごろりん
骨はしゃぶしゃぶ、肉、とろり
食いたや、名主の若にょうぼう~

「いやいや、いやいや!」
小糸の金切り声です。
「ちがう、ちがう、オニどん!」
てんてん坊が止めると、オニは、ドタッと、地面に身をふせて、おいおい、泣き出しました。

「だめだ!おら、どうしても、思い出せねえ!」
てんてん坊はその姿を、気の毒そうに、見下ろしていましたが、やがて、オニの背をやさしくたたいて、言いました。

「わたしはこれまで、いろいろな土地を旅してきた。どの土地にも、母が子に歌って聞かせるいい子守歌があるものだ。いくつか、おぼえているから、それをあんたに歌って聞かせよう。それを聞いて、思い出してみたらいい。いいかね?」
てんてん坊は、オニのかたわらにこしをおろして、今は切通しの上に高く上った月を見上げながら、しずかに歌い始めました。

「ねんねんころりよ、おころりよ~・・・」
木々も、小鳥も、岩や、けものも、じっと、聞き入っているようです。
そして、いつしか、オニも、ひざをかかえて地べたにすわり、じっと、耳をすませているのでした。
「ねんねこ、さっしゃりませ、ねた子のかわいさ~・・・」
てんてん坊が、3つ、歌い終わり、4つ目を歌い始めた時でした。

だれかがちがう歌を歌っています。
か細い、美しい女の声でした。
歌っていたのはオニでした。

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに

岩本朋子 について

福井県福井市出身。同市在住。大阪芸術大学芸術学部美術家卒。創作工房伽藍を主催。伽藍堂のように何も無いところから有を生むことをコンセプトでとして、キモノの柄作りからカラープランニング等、日本の伝統的意匠とコンテンポラリーな日用品(漆器、眼鏡、和紙製品等)とのコラボレーションを扱い、オリジナルでクオリティーの高いものづくりを心掛けている。また、高校非常勤講師として教えるかたわら、福井県立美術館「実技基礎講座」講師を勤める。