ねんねんごろりん、首ごろりん
骨はしゃぶしゃぶ、肉、とろり
食いたや、名主の若にょうぼう~
「いやいや、いやいや!」
小糸の金切り声です。
「ちがう、ちがう、オニどん!」
てんてん坊が止めると、オニは、ドタッと、地面に身をふせて、おいおい、泣き出しました。
「だめだ!おら、どうしても、思い出せねえ!」
てんてん坊はその姿を、気の毒そうに、見下ろしていましたが、やがて、オニの背をやさしくたたいて、言いました。
「わたしはこれまで、いろいろな土地を旅してきた。どの土地にも、母が子に歌って聞かせるいい子守歌があるものだ。いくつか、おぼえているから、それをあんたに歌って聞かせよう。それを聞いて、思い出してみたらいい。いいかね?」
てんてん坊は、オニのかたわらにこしをおろして、今は切通しの上に高く上った月を見上げながら、しずかに歌い始めました。
「ねんねんころりよ、おころりよ~・・・」
木々も、小鳥も、岩や、けものも、じっと、聞き入っているようです。
そして、いつしか、オニも、ひざをかかえて地べたにすわり、じっと、耳をすませているのでした。
「ねんねこ、さっしゃりませ、ねた子のかわいさ~・・・」
てんてん坊が、3つ、歌い終わり、4つ目を歌い始めた時でした。
だれかがちがう歌を歌っています。
か細い、美しい女の声でした。
歌っていたのはオニでした。