「あはは・・。いい気味!」
ハツさんは、海を見下ろす丘の上で、ほくそえみました。まんまと、講演会の会場から、ミエンダー氏を連れ出すことに、成功したからです。
「それにしても、あなたは、ほんとに軽いのね。ここまで、手を引いて、飛んできたけど、まるで、葉っぱ、一枚を運んでいるみたいだったわ」
ミエンダー氏は、不思議な目を、じっと、ハツさんに向けています。
「どうして、私を、みなさんの前から、連れ出したのですか? 私が、ほかの地球人たちと仲良くするのがいやなのは、どうして?」
「あなたはあの人たちのことを知らないのよ。地球人は、ほんとは、とても、おそろしいものなのよ」
ハツさんの目は、きりきりと、つり上がりました。
「あなたはつかまえられて、いろいろな実験をされて、冷とうされたりして、最後には、かいぼうされて、殺されちゃうのよ! それから、アルコールづけにされるんだわ!」
「ええ!?まさか!」
「いえ、そうに決まっているの! 私は、たっくさん、映画を見て、知っているのよ!」
ハツさんは、きゅっと、くちびるをかみました。それから、丘をめぐるようにして、キラキラと、海に流れ込んでいる川を指さしました。
「ほら、あそこ。見える? 川辺の林」
「はい」
ミエンダー氏はうなずきました。
「私、小さいころ、ここから、あの林を見てね、『なんてすてきなとこかしら! 行ってみたいなあ!』って、いつも思っていたの。でも、小学生はひとりで校区を出ちゃだめでしょう。それで、私、しんぼう強く待って、中学生になったその日に、わくわくしながら、あの林に行ってみたわ。どうだったと思う?」
「どんな所だったんですか?」
「きたない、ちいさい公園。草ぼうぼうで、ペンキのはげた動物の人形と、古いブランコと、さびた鉄ぼうがあっただけ。すてきだったのは遠くで見ていたから。実際はつまんない場所だったのよ」
ハツさんの声は、だんだん、なみだ声になって行きました。
「あなたが望遠鏡で見て、あこがれていた地球は、本当は、あなたが思っていたような、いい所じゃないの。地球人は、とても、よくばりな種族なの。ほかの星を乗っ取って、水や、住む所や、金属なんかをうばおうと考えているのは、宇宙人じゃなくて、地球人の方なの。だから、ミエンダーさん、地球人にキエール星のことなんか、絶対に教えちゃだめ! 丸はだかにされてしまうんだから」
ハツさんは、とうとう、うわーんと、泣き出しました。