ステルスおばあちゃん(6/8)

文・伊藤由美   絵・伊藤耀

「あはは・・。いい気味!」
ハツさんは、海を見下ろす丘の上で、ほくそえみました。まんまと、講演会の会場から、ミエンダー氏を連れ出すことに、成功したからです。
「それにしても、あなたは、ほんとに軽いのね。ここまで、手を引いて、飛んできたけど、まるで、葉っぱ、一枚を運んでいるみたいだったわ」

ミエンダー氏は、不思議な目を、じっと、ハツさんに向けています。
「どうして、私を、みなさんの前から、連れ出したのですか? 私が、ほかの地球人たちと仲良くするのがいやなのは、どうして?」
「あなたはあの人たちのことを知らないのよ。地球人は、ほんとは、とても、おそろしいものなのよ」
ハツさんの目は、きりきりと、つり上がりました。

「あなたはつかまえられて、いろいろな実験をされて、冷とうされたりして、最後には、かいぼうされて、殺されちゃうのよ! それから、アルコールづけにされるんだわ!」
「ええ!?まさか!」
「いえ、そうに決まっているの! 私は、たっくさん、映画を見て、知っているのよ!」

ハツさんは、きゅっと、くちびるをかみました。それから、丘をめぐるようにして、キラキラと、海に流れ込んでいる川を指さしました。
「ほら、あそこ。見える? 川辺の林」
「はい」
ミエンダー氏はうなずきました。

「私、小さいころ、ここから、あの林を見てね、『なんてすてきなとこかしら! 行ってみたいなあ!』って、いつも思っていたの。でも、小学生はひとりで校区を出ちゃだめでしょう。それで、私、しんぼう強く待って、中学生になったその日に、わくわくしながら、あの林に行ってみたわ。どうだったと思う?」
「どんな所だったんですか?」
「きたない、ちいさい公園。草ぼうぼうで、ペンキのはげた動物の人形と、古いブランコと、さびた鉄ぼうがあっただけ。すてきだったのは遠くで見ていたから。実際はつまんない場所だったのよ」

ハツさんの声は、だんだん、なみだ声になって行きました。
「あなたが望遠鏡で見て、あこがれていた地球は、本当は、あなたが思っていたような、いい所じゃないの。地球人は、とても、よくばりな種族なの。ほかの星を乗っ取って、水や、住む所や、金属なんかをうばおうと考えているのは、宇宙人じゃなくて、地球人の方なの。だから、ミエンダーさん、地球人にキエール星のことなんか、絶対に教えちゃだめ! 丸はだかにされてしまうんだから」
ハツさんは、とうとう、うわーんと、泣き出しました。

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに

伊藤 耀 について

(いとう ひかる)福井県福井市生まれ。福井市在住。10代からうさぎのうさとその仲間たちを中心に絵画・イラストを描き始める。2019年からアールブリュット展福井に複数回入賞。2023年には福井県医療生協組合員ルームだんだん、アオッサ展望ホールその他で個展開催するほか、県内アールブリュット作家展に出品するなど、活動の幅を広げている。現代作家岩本宇司・朋子両氏(創作工房伽藍)に師事。HP:絵とおはなしのくに