「ああ、私が、あんなややこしい発明をしなかったら、こんなことにはならなかったんだ」
日も落ちて、散らかったままの家に帰って来たコスモ博士は、リビングにすわって、頭をかかえました。多田君の入れてくれた、甘い、温かい紅茶に手をつける気にもなりません。
その時、
「うわっ!」
と、多田君が、すっとんきょうな声を上げました。
ハツさんが、とつぜん、コスモ博士のとなりに現れたからです。
「ハツさん!」
「お母さん!」
ふたりが、大いに安心したのもつかのま、呼んでも、ゆすっても、ハツさんは返事をせずに、ただ、宙をみつめているばかりです。
「大変だ、すっかり、おかしくなっている! 多田君、救急車を!」
ちょうど、その時、太平洋の上で、旅客機が、おかしなものに出くわしました。まだ沈んでいない太陽に照らされて、色とりどり、たくさんの風船が、ふわふわと、雲の上を、並んで行くのです。
「な、何だ、あれは!?」
乗客や、パイロットは、窓の外のふしぎな光景にくぎ付けになりました。
と、次のしゅん間、風船が、いっせいに、パチパチと、割れました。すると、人々を、何かが、ブワンと、通りぬけて行きました。うれしいような、悲しいような、つらいような、切ないような、いろんな感情が入り混じった何かです。
「何だろう、これ?」
なつかしく、幸せな気持ちでいっぱいになり、泣いている人もいました。
「ああ、人生はいいものだな」
ひとりの老人がつぶやくと、周りの人びとは、みな、うなづきました。
全くその通りだと、思ったからです。