「ありがとう、チェシャ。さようなら」
チェシャも、ペロペロ、オイボレをなめ返しました。
「だめだったら、帰ってくるんだよ。ヨハンソンさんのところで、いっしょに暮らそう」
ハトは、ポポッと、うなずきました。それから、バタバタッと、飛び上がり、チェシャの周りをひと回りしました。
チェシャはそれをまぶしそうに目で追いながら、
「トンビやカラスに、じゅうぶん、気をつけて!」
とさけびました。
オイボレが飛び立つと、それにつられて、何羽かのハトも飛び立ちました。
オイボレを先頭に、ハトたちはせん回し始めます。
2回り、3回り・・・。
回るたび、オイボレは高度を上げていきます。
クリーム色のタイルをしきつめた巨大なペデストリアン・デッキが、長い手足をのばして、駅から町へと人をはき出したり、逆に、町から駅へと吸い上げたりしています。
せかせか歩く人間たちは、まるで豆つぶのようです。
そんな中、チェシャの姿は、もう、灰色の点になりました。
5回り、6回り・・・。
ぎしぎしと並ぶビルの間に、きゅうくつそうに駅舎を横たえる仙台駅。長い列車が、うねうねと、出たり、入ったりしています。
ペデストリアン・デッキの下、日時計のモニュメントの周りには、バスや車がたまっては、次々におし出されて行きます。
道路は四方八方にのびて、ずっと遠くまで、信号がチカチカしています。
そして、その上を、ひっきりなしに流れる車、車、車。
7回り、8回り・・・。
オイボレにつられて飛び立ったハトたちは、とっくに、ついてくるのを止めて、安住のペデストリアン・デッキにもどっています。