「あのころは、全く、おそれ知らずだったなあ! 飛ぶことが、とにかく、おもしろくて仕方がなかったものだ」
いっしょに巣立ちしたきょうだいたちのだれよりも上手に飛べました。
母バトが心配するほど、高く飛びました。
ツバメよりも、すばやく、向きを変えることさえできました。
カラスなんか、ぜんぜん、こわくありません。
時には、自分から、からかいに出かけ、追いかけっこを楽しんだりしていたのです。
「そんな無茶、するもんじゃないよ」
と、母バトに、何度もたしなめられました。
それでも、心は、山や海のずっと向こうにある、見知らない世界へのあこがれで、いっぱいでした。
「ぼくはただの町のドバトで終わりたくないや。きっと、いつか、遠くへ旅をしよう!ガンや白鳥たちのように、わたりをするんだ!」
それなのに、どうでしょう。年月がたつうちに、毎日のえさやねどこの心配で、いつの間にか、そんなあこがれはしぼんでしまっていました。
わたりの夢など、ばかばかしくさえ思えました。
やがては、駅の回りのほんのせまい世界に自分を閉じこめてしまったのです。
「でも、きょうはちがうぞ。私は、とうとう、広い世界へ飛び出したんだ!」
まるで、自分自身も強くて大きいわたり鳥になった気分です。
ハトは、耕運機の後をくっついてしきりにえさをあさっているカラスたちを、「ふふん」と鼻で笑いました。
「あさましいやつらだなあ。えさのことしか、頭にないんだから。それに比べて、エヘン、見よ、この私を! 遠くの山をめざすヒーローだぞ!」
速く!もっと速く!
高く!もっと高く!