バイバイパンダパン(1/4)

文と絵・満月詩子

「わぁ」
結那は声をあげると、お母さんの顔を見つめました。
キュッと結んだ口から、期待がのぞきます。
「どうぞ、全部お食べください、お姫さま。アンジさんが、結那にってくれたものだから、気にしないでいいよ。形くずれてるし、中身が少なくなっちゃってるけど、味はいっしょだからおいしいよ」

アンジさんとは、お母さんが働く「ふんわりパン」の店主です。
あんこが絶品と評判のお店なので、あんこのおじさんをりゃくして、みんな、アンジさんと呼んでいます。
おどけた口調のお母さんに安心した結那は、袋からクマのパンを取り出しました。
ほんのりと、はちみつの香りがはなをくすぐります。

焼いたときにゆがんでしまったのでしょう。クマの顔は、角ばってぷっくりふくらんでします。
「こっちはお母さん」
結那は、パンダのパンをお母さんに手わたしました。目のまわりの黒が少しずれてしまい、片目をあげたような顔つきです。

「ありがとう。でも、いいの?」
「うん、お母さん、給食も食べていないでしょ」
結那の言葉に、お母さんの目尻がやさしく下がりました。

「じゃあ、いただきます。でも、このパンダ、人相悪いね~」
「悪パンダ、だね。悪はやっつけなきゃ。お母さん、食べちゃえ~」
結那はお母さんと顔を見合わせ、笑い合いました。そして、二人でパンを口に運びました。

そのときです。アパートのドアのカギを回す音が室内にひびきました・・・。

満月 詩子 について

(みつき うたこ) 佐賀県生まれ、在住。学校図書館勤務を経て、福祉関係の仕事に就く。現在は、仕事以外に、ボランティア活動なども行いながら、絵本や児童書の創作を続けている。日本児童ペンクラブ、日本児童文芸家協会会員。 2012年、『その先の青空』で、第15回つばさ賞、佳作に入選 おもな著作に、『さよなら、ぼくのひみつ』【『さよなら、ぼくのひみつ』(国土社)に収録】。『たまごになっちゃった?!』【佐賀県DV総合対策センター発行】、『あかいはな」』【『虹の糸でんわ』(銀の鈴社)に収録】などがある。