気の毒だろうとうったえるお父さんに対して、お母さんはかたくなだった。
ふたりの夫婦ゲンカってめずらしいと思いながら、おっかなびっくり背筋(せすじ)をちぢめた秋斗(あきと)は、箱の中のちいさな生き物にそっと指を差し出した。
じっと目をとじていた不細工なヒナは、何かの気配を感じたのかぱちりと目を開ける。
その目はクリクリきらきらなんてしていなくて、すこしねぼけた風だった。
そして、目の前にせまる少年の指先に、ツンと、とがったくちばしをおし当てて、ぱっくりと大きな口を開いた。
――ごはん。
「はら、減ってるんだ」
声なくともわかるそのうったえが、少年の胸(むね)を不意に熱く打った。
「お母さん、これオレが育てる」
「え?」
「オレが育てる。コイツ、はら減ってるって、なに食べるの? ごはんつぶ?」
「バカなことを! ちいさいヒナを育てるのってむずかしいのよ! エサだってこんな未熟(みじゅく)なヒナに何をあげる気? すぐに死んじゃうよ!」
「お父さん、スマホかタブレット貸して」
「え? ああ、けどお前」
秋斗は返事を待たずに父のリュックのファスナーを開けて、タブレットを引き出した。そしてしゃがみこむと、ギュッとまゆを寄せ慣れた手つきで、文字をポツポツと打って検索(けんさく)画面を表示する。