ピイの飛んだ空(6/8)

文・七ツ樹七香   絵・久遠あかり

「いや・・・やっぱ、ムリ。ムリだって」
右手でつまんでいるバッタを手に、秋斗はうなっていた。
つかまえたショウジョウバッタのユーモラスな顔が、こまったように自分を見ている、ような気がした。ピイが家に来るまでは、秋斗の遊び友だちだった。虫取りあみを振り回し、つかまえて虫かごの中にしばらくいてもらっては、夕方には草むらに帰ってもらう。
そういう風にして毎年夏に遊んでもらっていた。そんなバッタに、今から自分のすることといえば客観的に見てひどいことだ。

実行しなくてはならない。何度かなやんで、やりかけた。しかし、ゾッとしてしまってダメだった。おくびょう風が秋斗の気持ちをもてあそんでいた。
秋斗はついに、たよらずにおくつもりだったお母さんに助けを求めることにした。

「お母さん、・・・あの、これ」
「バッタね。シソの葉食べちゃうから、つかまえてくれて助かるよ」
見せに行くとお母さんはのんきに返事をした。お母さんがこっそりとスズメの育て方を調べているのはもうわかっていた。だから、秋斗がしてほしいことも理解しているはずなのに、てんで気づかないふりをしている。

「ピイにあげるんだ、これ」
「うん、いいんじゃない。丈夫(じょうぶ)な体を作るのに、こん虫も必要だって書いてあったもんね。エサやり終わったらなにする予定?」
「あ、うん。宿題するんだけど。これ、バッタ」
「ピイにあげるんでしょ? あげてきなさい」
「足が、ノドに引っかかるかもしれないって。虫が暴れたら大変だって」
「うん、そうだね。取ってあげなさい。胴体(どうたい)をおさえて、足をちぎるの」
「え、だって・・・」
「自分でやりなさい。ピイのために」

七ツ樹七香 について

(ななつきななか)熊本県出身。「ピイのとんだ空」で第30回日本動物児童文学賞優秀賞。 「ラスト・オテモヤン」で第41回熊本県民文芸賞小説部門一席を受賞。熊本日日新聞に全10回連載され好評を博す。本作は朗読CD化、熊本県内数カ所の図書館で視聴可能。 ほか、第1回西の正倉院みさと文学賞 佳作、集英社WEBマガジンコバルト がんばるorがんばらない女性小説賞大賞、第16回深大寺恋物語 調布市長賞など。 共著に『謎解きホームルーム2』『恐怖文庫』『感動文庫』(いずれも新星出版社)動物が好き。犬と小鳥と暮らしている。

久遠あかり について

(くどうあかり) 漫画家。主に児童向け、動物のお話を執筆。ハリネズミや犬を飼い自然と動物好きに。現在は保護猫と暮らしている。また、別名義(光晴ねね)で少女漫画やロマンスジャンルなどで活動中。 pixiv fanbox 光晴ねね https://nene-mitsuharu.fanbox.cc/