ショックは大きかったが、不思議なことに一度やってしまえば、どうにかなってしまうものだった。苦手なクモだってかんたんに手づかみできるようになったのだからおどろきだ。
「おおう・・・お前、なかなかバイオレンスなことやってるな。いい母ちゃんだ」
3匹のバッタの長い足を手早くむしる息子の手元をのぞきながら、お父さんがブルリと背中をふるわせた。
「うん、ピイは、こうした方が食べやすいんだ。ケガしないようにしてるんだよ」
秋斗が母親業をやりとげる決意をしてから、ピイが食べられるものは次々増えた。家の中を飛んでいた小さなハエや、ハエトリグモもいいごちそうだった。
外に出れば夏とお母さんの庭が秋斗の食料調達を手伝ってくれて、バッタはもとよりコオロギや名前も知らない虫まで、十分なエサを毎日調達することができた。
そんなさなか、あのカメムシ事件は起きたのだが、それをのぞけばおどろくほど順調にピイは育っていった。
「よし、いいフン!」
小さいメモ帳に定規で線を引いて作った、秋斗の子スズメ健康チェックはいつも二重丸だった。
(本作品は「第30回日本動物児童文学賞」優秀賞受賞作を一部平易に改稿したものです)