ペンギンのアディ(5/10)

文・伊藤由美  

5 モルテン

仲間たちとの毎日は、夢のように楽しいのに、アディは、どうしても、トトのことを忘れることができません。
海には、たくさんのカモメもいます。
空から海面に目をこらし、魚のかげを見つけると、ドボンと、水中につっこんで、つかまえるのです。
アディは、その中に、あのトウゾクカモメがいやしないかと、探すようになっていました。

そして、ある日、とうとう、アディは見つけたのです。
「あ、きっと、あいつだ!」
とぼけた顔に見覚えがあります。片方の目ははれて、半開きになっています。
「トトがぶつかったからだわ!」
アディは、すばやく、およいで、トウゾクカモメの後ろに回り、そのせなかに、ザンブと、大ジャンプ!

「うわあ、何だ!」
アディの重みで、トウゾクカモメはしずみました。
あわてて、うき上がろうとするトーカモを、アディは、両うでで、しっかり、かかえこみました。
もがいても、もがいても、トウゾクカモメは、しずんでいきます。

「あわわ、ブクブク、ブクブクブク・・・」
トウゾクカモメは、つばさをばたつかせ、やっとの思いで、水面に顔を出しました。

「だれなんだ! やめてくれ! 死んじまうじゃないか!」
「だめよ! ゆるさないわ! あんたはトトをさらって、食べちゃったんだもの! あんたも、おぼれ死んで、アザラシや、魚のエサになるといいんだわ!」

「トトだって!? そういう君はアディかい!」
「どうして、あたしの名前を!?」
アディはびっくりしましたが、トーカモをしめつけるのはわすれません。

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに