「助けてくれたら、わけを話すよ! だから、はなしてくれ!」
「うそよ! あんたはぬすっとトーカモ、ヒナ殺しのトーカモだもの! しばりをゆるめたら、にげるにきまってる!」
「信じてくれ! モルテン・・・、モルテンだ!」
トーカモは声をふりしぼりました。
「何!?」
「名前だよ、ぼくの・・・」
はっとしたアディの力がゆるんだすきに、トウゾクカモメは、さっと、空にまい上がりました。
「ああ、しまった!」
くやしそうなアディをしり目に、トーカモは、空中で、ブルブル、体をふるわせ、水をはじいています。
ところが、おどろいたことには、それから、また、アディのそばに、下りてきたではありませんか。
「いやあ、トウゾクカモメをおそうペンギンなんて、聞いたことがないよ。君はほんとに変わっているね」
モルテンは、アディと並んで、水面に、プクプク、うきながら、言いました。
「トトが、アディはすごく元気なねえさんだって、言っていたけど、その通りだな」
「トトが、あたしのこと、あんたに話したっていうの!? それにしても、あんた、どうして、にげないで、もどって来たの? それに、あんたにさらわれた後、トトはどうなったの!?」
「せっかちだな。一息もつかせてくれないのかい?」
モルテンは、とがったくちばしを開けて、ケケケッと、笑いました。
「じゃあ、最初の質問から。どうして、ぼくが、にげずに、もどって来たか?
答え。それが自然界のルールだからさ。ふつう、食べる者と食べられる者は、たがいに、名前を教えてはいけないんだ。もし、教えてしまったら、もう、食べたり、食べられたり、できなくなるからねえ」