ペンギンのアディ(5/10)

文・伊藤由美  

「どうして?」
「どうしてって・・・」
モルテンは、まん丸い目を、まじまじと、アディに向けました。
「考えてみなよ。君は名前を知っている相手の命をうばえるかい? アディ、君は、今、ぼくを殺せるかい? どう?」

アディは、考えてみて、それから、首をふりました。
「だめ。とてもむり」
「だろう。当たり前さ。名前を名のりあったら、もう、友だちなのさ」
「友だち? あんたとあたしが?」
「そうだよ」

「じゃあ、あんたは、もう、あたしを食べないってこと?」
「ああ、食べないよ。そのかわり、アディ、君も、もう、ぼくをおぼれさすことはできないってことだぜ」
「それって、すごくいいルールね」
アディは、感心して、うなずきましたが、モルテンは、
「いやあ、時には、とてもこまったルールだよ。はらがへっている時なんか、特にね」
と、笑いました。

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに