それを持って、モカはY字路の森へ急いだ。葉っぱが生い茂り、どこが入り口かわからない。立ち尽くしていると、塀の向こうで枯れ木が二本、ガサゴソと動き出した。
「あれれ?」
枯れ木に見えたのは、実は立派なツノで、現れたのは、そのツノを持つ大きなトナカイだった。動物なのにセーターを着ていて、二本足で立っている。トナカイは「こちらにどうぞ」と言うように、前足を森の奥へ差し伸べた。すると、うっそうとしていた森の木々が、左右に反り返り、目の前に一本の道が開けた。
トナカイのしっぽにつかまり、モカはその道を風のように走った。
ずいぶん深い森だ。木々が途切れた先に、変てこな家が建っていた。
「なに、あれ?」
右半分が地面にめりこんで、斜めに大きく傾いた家。
答えは、後ろから響いてた。
「転んじゃったんだよ、ぼくんち」
振り返ったら、モカと同じ年頃の少年が立っていた。
「あなた、だーれ?」
「ぼくは、ここの主人さ」
「じゃあ、カドノ博士なの?」
「みんな、そう呼ぶね」
少年はモカの手をとって、家の中へと案内してくれた。外から見るとひどく傾いているくせに、玄関の中は普通の部屋で、ちょっと図書館っぽい。だって、天井まで続く本棚だらけだから。
「世界中の都市伝説を研究した、ぼくの本さ」
少年は、鼻をふくらませた。
「私だって知ってるよ。口裂け女とか、13階段とか、あと真夜中の鏡とか。夜中の12時ちょうどに鏡をのぞくと、未来の結婚相手が見える」
「やってみた?」
モカは首を横に振った。
(次のページに続く)