ラブレター

文・田村理江  

私の書く手紙は、お客様が「欲しかった」、でも「決して手に入らない」手紙なんです。片思いの彼からの心のこもった手紙。亡くなったパートナーからの感謝の手紙。ケンカ別れして音信不通になった友からのこだわりのない手紙。いろいろ。

お客様には、相手の方の文字が記されたものを持ってきてもらい、私はその文字のクセを忠実に倣い、書いていきます。文面は、お客様のお望み通り。たいていは、熱烈なラブレターです。
偽りの手紙で商売するなんて、とお叱りを受けるのも、ごもっとも。でも、お客様は「偽」であっても、ひとときの安らぎが欲しいのです。手紙は、お客様の心のお守りになり、大袈裟かもしれませんが、明日を生きる力になるのです。

あなたが今、幸せでも、振り返れば一つくらい、実らなかった恋があるのではないでしょうか? 思い出してみてください、その人のことを。もし、その人があなたを想ってペンを執ったらーーー、ねぇ、久々に胸がときめきません?
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田村理江 について

(たむら りえ)東京都生まれ 成蹊大学文学部日本文学科卒業。日本児童文学者協会第15期文学学校を終了。 第6回福島正実記念SF童話賞を受賞して、『ガールフレンドは宇宙魔女』(岩崎書店)を出版。 児童書の作品に『リトル・ダンサー』(国土社)、『夜の学校』(文研出版)、『魔の森はすぐそこに・・・』(偕成社)など。絵本の作品に『ふなのりたんていラッタさん』(フレーベル館)、『ハンカチのぼうけん』(すずき出版)など。 HP:田村理江のページ