その日は収穫祭でした。
作物の豊作を祝い、朝からお城も街もお祭です。
スゥのもとにもたくさんの人々が集まり、陽気な音楽が流れ、夜遅くまでにぎわいました。
そして楽しかったお祭もやがて終わりをむかえ、静まり返った頃。
遠くから、見慣れない美しい鳥が2羽やってきました。そして
「ごらん、美味しそうな実がなっている木があるよ」
と、スゥの枝に止まりました。
「本当ね、とても美味しそうな実だわ」
スゥにはすぐに分かりました。
すんだひとみと、長く美しい黄色い羽。なにより、1日も忘れたことがない、あのさわやかなさえずり。
なんとライラが成長し、つがいとなってやって来たのです。
しかし、彼女はスゥに全く気づきませんでした。ライラが無事だったことは安心しましたが、彼女が遠いところに行ってしまったことに、スゥは深く傷つきました。
「ライラ・・・」
これまでずっとがまんしていた想いは、やり場のない大きな大きな悲しみとなって込み上げ、自分をだました学者や森に返してくれなかった王様だけにとどまらず、周りのすべてに向けて、スゥは一気にはき出しました。
太い根は大蛇のように動き回って地ひびきとともに大地を割り、枝とツタはエモノを捕らえたクモの巣のように伸びてお城をつつみ、青々としていた葉は刃となって触れるものをかみくだき、あの甘かった実は猛毒の実へと変わりました。
「あの学者め!! こんないまわしい呪われた木など、早く燃やして灰にしてしまえ!」
驚いた王様はすぐに兵士たちに命令して火矢を放ちましたが、その言葉を聞いてさらに怒りを増したスゥにはまったく歯が立ちません。逆にお城や街を、炎があっという間に飲み込みました。
われを忘れた彼を、誰も止めることはできず、みんな次々と逃げ出して行きました。
もう人々のさけび声も彼には届きませんでしたが、みさかいなく暴れるスゥの目に、ライラが映りました。彼は少しだけ正気に戻り、まがまがしい枝を伸ばして彼女に触れようとしました。
しかしその時、
「危ない!ライラ!」
と、雄鳥がそれをじゃまをしました。
それを見たスゥの目は再び怒りに染まり、枝で雄鳥をわしづかみと、思い切り地面に叩き付けました。
「なんて恐ろしい樹なのかしら! こんなところにはもういたくない! 早く逃げましょう!!」
ライラが言いました。
スゥはライラを逃すまいとたくさんの枝と葉とツタで囲おうとしましたが、彼女は傷ついた雄鳥に寄りそい、彼方へ飛び去っていきました。
夜が明けると、昨日のお祭が、うそのように、お城も街もガレキの山となっていました。