名も無い立役者 ーーBOOK展2023より

文と絵・田村理江

BOOK展2023で発表した5作品のうちの第3弾をお届けします。
◆BOOK展の様子はこちらから→BOOK展2023を終えて
◆動画はこちらから→YouTube「BOOK展2023」

『名も無い立役者』
映画『キネマの神様』を観たせいか、古き良き映画製作現場の雰囲気に魅かれ、この作品の背景を映画黎明期にしました。名作と言われる作品は、才能ある人たちが考え抜いて生み出すものでしょうが、稀にそうじゃない場合だってあるかもしれません。プロよりもプロらしい眼で映画を見つめるのは、心から映画を愛する人なのです。


名も無い立役者

じっくりと味わい深い記事にしたいと思った。この春、大人のための ラグジュアリーな情報誌が創刊されることになり、その編集長に抜擢されたのだから、張り切らないわけにはいかない。

「樋口さんは今、35だろ? 読者層は60代以上なんだが、若い視点で新鮮な切り口の雑誌にしてほしい。売上も期待してるよ」
社長に肩をたたかれた。この間までティーンのファッション誌をやっていたのに、いきなりシニア向けへ転向。本音としては「えっ?」って感じ。

早速、編集会議が開かれ、冒頭のカラー記事は往年の映画俳優をクローズアップしようと決まった。
50代のスタッフが、
「澤ノ井謙なんか、どうですか?」
と、提案してきた。
現在96才になる大御所で、うちの会社でも伝記本を出しているし、古い映画がユーチューブで若い層にも人気らしい。いいかも、と思う。
スタッフは、
「ご高齢だから、取材に応じてもらえるかどうか・・・」
と気を揉む。

田村理江 について

(たむら りえ)東京都生まれ 成蹊大学文学部日本文学科卒業。日本児童文学者協会第15期文学学校を終了。 第6回福島正実記念SF童話賞を受賞して、『ガールフレンドは宇宙魔女』(岩崎書店)を出版。 児童書の作品に『リトル・ダンサー』(国土社)、『夜の学校』(文研出版)、『魔の森はすぐそこに・・・』(偕成社)など。絵本の作品に『ふなのりたんていラッタさん』(フレーベル館)、『ハンカチのぼうけん』(すずき出版)など。 HP:田村理江のページ