――おかしな話なのだ。
ネクタイはいう。
「今日のぼくのジャケットはねぇ、フランス製で300ユーロもしたものなんだ。ユーロってわかるかな? でもぼくはいまいちだと思うんだよね。ふふん。色がね、もう少しこいブルーでもよかったのかなぁって、そうは思わない?」
花ノ井小学校、6年2組の教室。
ネクタイの周りにはつねに男女、5、6人の友だちが集まって、みんな、うらやましさと尊敬の眼差しで、ネクタイを見ている。
ネクタイというのは彼のあだ名である。
彼は月にニ、三度、ネクタイをして登校するので、みんなこう呼ぶようになった。
ネクタイをしてくるときは、大人みたくスラックスのズボンに、キッチリとしたジャケットをまとっている。
こうした日は、学校の帰りに家族と街にいって買い物をしたり、外でご飯を食べるのだそうだ。