春を泳ぐヒカリたち(9/11)

文・高橋友明  

・・・ウォー、タ・・・。
遠くで何かきこえた気がした。きこえるかきこえないかの、すれすれでそれは耳に入る。
本当にかすかに。空耳だろうか?
しばらくするとまたきこえる。

・・・おおー、・・・い・・・お。
少しずつ大きくなっていて、ぼくは耳をかたむける。
なぜだかその音は、とてもなつかしい感じがする。忘れてはいけなかったもののように思う。

それが、人の声らしいとわかった瞬間、はっきりとこんな声がきこえた。
「おーい、たけちゃん! やっぱりここだと思ったわ!」
視線を動かすと、黒いスニーカーが見えた。
見上げると、目の前にべにちゃんが立っている。

とてもびっくりした。すごく驚いた。
ぼくは思わず、ピョコンとバッタが飛び跳ねるように立ち上がっていた。
「ど、どうしたの、べにちゃん!」
「どうしたじゃない! それはこっちのセリフよ! みんな大騒ぎしているわよ、いったい今までなにをしていたの!?」
「今まで・・・、あ、あれ、もう夜なの?なんで、、」

高橋友明 について

千葉県柏市在中。日本児童教育専門学校卒業。 朝昼晩に隠れているその時間ならではの雰囲気が好きです。やさしかったりたおやかであったり、ピリッとしていたりする。 同様に春夏秋冬や天気や空模様も好きです。 そうしたものを自分の作品を通して共感してもらえたら幸いです。