『パリのおばあさんの物語』
スージー・モルゲンステルヌ 作
岸 恵子 訳
千倉書房
2008年10月刊
◆90歳のリアルは
どこかの新聞に『異次元の長寿社会』という見出しが躍っていた。そう、ひと昔前までは90歳と聞くと、座布団の上で緑茶をすすりながら日向ぼっこをするおじいさんやおばあさんをイメージしたものだ。
それが今や、90代のスポーツインストラクター、カメラマン、ユーチューバー、医者・・・、社会で元気に活躍している人のなんて多いこと! 定年制度を廃止する会社が増えて、90代の現役ビジネスマンもいるかもしれない。
「すごいな。見習いたいな」
と、思う。
が、この絵本を読むと、90歳のリアルがひしひしと伝わってきて、メディアで注目される超シニアたちは、暮らしの中のほんの一部分だけをクローズアップしているのだ、と目覚めさせられる。
リアルに生きる主人公は、どうにもならない身体の衰えと折り合いをつけながら、思い出と共に生きている。華々しいところはなく、静かで少し寂しい。
だけど、とても素敵だ、とも思う。年を取ることの美しさや深み、かけがえのなさが詰め込まれた、重みのある一冊。
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