BOOK展2023で発表した5作品のうちの第4弾をお届けします。
◆BOOK展の様子はこちらから→BOOK展2023を終えて
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『暗号の意味』
SNSのおかげで、誰もが自分の創った作品を気軽にネット上にアップして、販売することも可能になりました。そんな今の時代の空気を託した話です。
現代っ子の主人公ですが、意外と古風なところもあって、血のつながりや不思議な因縁を盲信します。ひとときの夢物語なのか、本当の暗号なのかは皆様の想像にお任せします。
暗号の意味
「紗彩の手芸好きは、隔世遺伝かしらねぇ」
大学生活最後の冬休みに、作品作りに熱中している私を見て、母がつぶやく。
「おばあちゃんって手芸なんてやってた?」
「ひいおばあちゃんのほうよ。子供服とかササーッと縫って、モダンな刺繍をつけて。誕生日やクリスマスになると、必ずプレゼントしてくれたものだわ」
「そういえば、ママの子供の頃の写真って、いつも可愛い服、着てたもんね」
「でしょ? 手作りのモダンな服を、学校に着て行くのが自慢だったな」
写真でしか会ったことのない曾祖母の隠れた才能の話を、今日初めて聞いた。
「紗彩は骨董品も好きでしょ。その点も似てるのよね」
「へぇー。ママは新しい物が好きだもんね。去年の服は流行遅れだからって、すぐショッピングに出掛けちゃう」
「時代に乗らなきゃ。紗彩、あなたも引きこもってばかりいないでオシャレしなさい、若いんだから」
「はーい、はい」
ママの話は適当にかわす。オシャレもいいけど、貴重な最後の冬休みを、自分の好きなことに使いたいんだ。私はハンドメイドが大好き。刺繍や編み物で作った作品を、誰にもナイショでSNSのフリーマーケットに出している。まだ一つも売れてないけれど、これからだ!
作品作りの時間は、今ならたっぷりある。希望した繊維会社に就職が決まったのが9月。大学にはゼミの時に顔を出す程度だから、残りの時間は自由。ネットのフリーマーケットへの出展を本格的にやろうと思っている。
そのために買ったのが、これ。謄写版って言うのかな。ママは「なーんだ、ガリ版ね」なんて言ったけど、昔、流行っていたらしいポータブルな印刷機だ。