「ああ、どこへ行ったらいいのだろう? 家来も友もおらず、たった、ひとりで」
重い心で、あちこちをさまよううちに、王子は、深い森の中にまよいこんでしまいました。
「ここはどこだ?」
暗くて、古い森。何だか、おそろしい怪物(かいぶつ)でも、住んでいそうです。油断なく、馬を進めていくうちに、王子は、目もさめるような、すんだ湖に出て、ほっとしました。
「ああ、助かったぞ。のどが、からからだったんだ!」
王子は馬を下りて、思う存分、冷たい水を飲みました。
「ついでに、旅のあかも落とそう」
王子は着物をぬいで、水あびをし始めました。その時、ふと、水の中に、だれかがいることに気が付きました。雪のような白いはだに、サファイアのような青い目。
王子は、あわてて、水から飛び出し、剣のつかに手をかけました。
「何者だ! 人ではあるまい!? 私にかかわると、命はないぞ!」
すると、水の上に、ふんわり、少女が立ち上がりました。何という美しさだったでしょう! 湖の妖精にちがいありません。