水のお城(1/6)

文・伊藤由美  

少女は言いました。
「私はリムニー。この湖の主人です。おまえこそ、何者です。私の住まいをけがすとは!」
王子は、しばらく、あっけにとられていましたが、やがて、心を決めて、答えました。
「私はさすらいの王子ディドー。湖があなたの住まいとは知らず、長旅のよごれを落としてしまった。どのようにわびれば許してもらえるのか?」

妖精などをおこらせたら、どんな目に合わされるか分かりません。
「さすらいの王子?」
リムニーは、しばらく、王子を見つめていましたが、
「本来ならば、水に引きずりこんで、すぐにでも、殺してしまうところだが、一度だけ、チャンスをあげましょう」
と、言いました。
「私の望むとおりになさい。そうすれば、おまえは命が助かるだけでなく、おまえ自身の王国を持つことができるでしょう」

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに