水のお城(1/6)

文・伊藤由美  

自分の王国が持てると聞いて、王子はどきどきしました。
(王国が持てれば、もう、つらい旅を続けなくてもすむ。いや、それどころか、強い軍隊を育てて、私をこんな目にあわせた父王や兄弟たちをせめ、仕返しすることだって、できるかもしれないぞ!)
「いったい、何をすればいいのだ?」
目をかがやかせて、王子が聞くと、湖の精は、指先で水をはじきました。すると、それは、一筋の糸になって、すうっと、森の奥へ、のびて行きました。

「これをたどって行きなさい。日暮れには、いっけんの家に出ます。そこにアルセイダという名の魔女が住んでいます。おまえのその若さと美しさで、彼女に取り入りなさい。結婚の約束をすれば、彼女は、おまえに、すっかり、心を許すでしょう。結婚式の前の晩、彼女が寝入ったら、まくらもとにおいてある水晶玉を取ってくるのです」
王子は不安に思いました。
「そのアルセイダとやらが、見知らぬ私に、そう、やすやすと、心を開くだろうか?」

すると、リムニーは、にやり、笑ったように思えました。そして、水面を、ふわっと、すべって来て、王子の手から剣をうばい、王子の足を、グサリっと、さしたではありませんか!
「な、何を!?」
王子はひめいを上げて、ひざをつき、血の吹き出す傷口をおさえました。でも、湖の精は冷ややかでした。
「こうすれば、アルセイダはおまえをあわれに思って、傷の手当てをし、やがては、おまえに恋心をいだくでしょう。心の優しさが、あれの命取りになるのです」

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに