◆砲撃が命中、母は・・・
主人公のせいとくは、沖縄の方言で泣き虫という意味の「なちぶー」と呼ばれています。
父は兵士として戦地へ赴き、残された母親と幼い妹のきぬ子の3人で米軍が押し寄せる戦火の沖縄を逃げまどいます。
空からも海からも軍機から砲弾が飛び交い、逃げ込もうとした洞窟でも日本兵によって追い払われます。
そんな中でようやく見つけた洞窟内でやっと眠ることができたと思ったら、せいとくは怖い夢を見て泣き出してしまいます。
その泣き声を聞いた赤ん坊がつられて泣き出してしまうのですが、米兵に居場所が知れることを恐れた兵隊によって無情にもその赤ん坊は殺されてしまいます。
それを見たせいとくは自分のせいだと思い、涙が止まりませんでした。
さらに逃げる途中、大きな家に砲撃が命中し、その砲火によってせいとくの母は致命傷を負ってしまいます。
やがてせいとくも銃弾が当たり意識を失いますが・・・。
戦争によって父、母を失い、後に再会した妹と二人で生きていくことになったせいとく少年。
もうその頃には「ぼくは なきません」と語り、戦争によって多くのものを失った少年の心の叫びが、この言葉に集約されているように感じます。
米兵によって島を取り囲まれた住民たちは、命を狙われるだけでなく自分たちを守ってくれるはずの日本兵からもひどい扱いを受けていました。
また安全な場所がどこにもなく、常に怯えながら島内をひたすら転々として逃げている期間どんな胸中であったのか。
私たちの想像をはるかに超える恐怖や苦しみ、悲しみがあったことを感じます。
戦争は兵士だけではなく、ただそこに住んでいたという理由だけで住民たちの多くの命が奪われています。そのことは決して忘れてはならないことです。
作者である田島征彦さんは「作者のことば」の中で、「悲惨な戦争を子どもたちに見せて怖がらせる絵本を創るのではない。平和の大切さを願う心を伝えるために、沖縄線を絵本にする取り組みを続けているのだ」と語っています。(次ページに続く)