1 遭遇
オレ、朝日輝。
高校2年、17歳だ。
冬休みの初日、こうして、ここにいるのは、頭の中に、猫アンテナが立ったから。
猫アンテナーオレが勝手にそう呼んでいるだけだけどーを持つようになった経緯は、語れば短い。
が、今は、語っている暇は、ないようだ。
「ここだ!」
オレのアンテナが告げている。
「ちょっと失礼、いたしやす」
誰に言うともなく言いながら、夜間、ブルドーザで道端に寄せられた雪を足がかりに、2メートル程の黒い板塀に手をかけて、のぞきこむ。
と、10メートル程向こう、軒下辺り、新雪の中から足が、黒い長靴をはいた両足が、V字を描き突き出されてる。
い、犬神家の一族・・・、みたいだ。
あの映画の、静かな水面から突き出た足の映像が、頭に浮かび、怖くなる。
「さ、殺人事件か…」
仕事(といっても趣味だけど)は一先ずあっちに置いて、警察に連絡だ・・・、と思いつつも、目が離せない。
「は、早く、警察に・・・」
張り付く視線を無理くりはがそうとした時だった。
足が、折れ曲がった。
そして、また伸びた。
足の主は、折れ曲げ、伸ばすを繰り返している。
「生きてる!」
よかった!
すぐに、救出だ!
塀を乗り越え、新雪に沈む足を引き抜きながら、全速力で遭難者に向かう。
30年ぶりの大雪で、一晩で1メートル20~30センチも積もったのだから、足の主の上半身は、すっぽり雪に埋まってる。
突き出された足を抱え、引っ張り上げようとするが、動かない。
こっちも雪に阻まれながらの作業の上に、足の主がジタバタするものだから、抜き出し作業は、はかどらない。
どうすれば、引き抜ける?
体勢を変えてみよう。
後ろ向きになり、相手の足を、背負い込み、
「どおおおっこいしょーっ!」
渾身の力をこめて、体を前に屈める。
と、ようやく抜けた上半身は、勢い余って、ぶっ飛んで、今度は、雪の上に人型を作った。